あと5回クレームが来るぞ

かつて、初任で4年生に配属になり、そのまま持ち上がって5年生担任となった若い女性の先生と学年を組んだことがありました。
学年の構成は、私と、その若いM先生と、中堅の女性教師のT先生の計3名でした。ちなみに、どのクラスも39名で、にぎやかそのものでした。

その若いM先生は、もちろん初めての高学年担任です。ですから、私がフォローしても、保護者から指導不足を指摘されることもありました。
5年の最初の4月、5月は、運動会の練習や委員会の発足もあり、正直、てんやわんやの状態だったと思います。
何度か、問い合わせに近い「クレーム」も受けたのです。
しかし、M先生は朗らかながらも、子ども達に毅然とした指導もできました。すぐに、クラスは落ち着いて行ったのです。

その保護者から、いろいろ指摘を受けていた時期、M先生に話したことがありました。
「私やT先生のようなベテランでも、二月に1回くらいクレームのような連絡はあるんだ。そして、月に1回くらい子ども同士の大きなトラブルはあるんだよ。うまく回っているように見えても、そのくらいは起こるんだ。
あなたは、まだ若いんだから、一月に2回くらいクレームが来ると覚悟していた方がいい。保護者から、自分に足りないことを教えてもらっているのだと思って、待ち構えていようよ。」
M先生は、神妙に頷いておりました。

月日は流れ、あわただしく5年生の1年間が終わりました。
M先生のクラスは落ち着きましたが、あいにく、私のクラスの方がいろいろあって対応に忙しかったのです。それでも、なんとか、落ち着き、3人そろって6年生に持ち上がることができました。

そして、またまた、あわただしい6年生の日々。やっとのことで、12月には、卒業アルバムも仕上げ、年を越すことができました。
そして、1月。久しぶりに会ったM先生に、すっかり忘れていたことを言われました。
「先生、あと3ヶ月で卒業式です。あと少し、よろしくお願いします。保護者からあとクレームが5回(1月に2回、2月に2回、3月は短いから1回)来るのだと、覚悟して、油断しないでクラスの子を指導していきます。」
M先生に、にっこりと、しかし、きりりと言われると、私は「そうだった。そんなことを言っていたな。」と5年の最初の頃のことを思い出しました。
「M先生、そうだね。あと少し、油断しないでがんばろう。」
と言うと、M先生からは、こんな言葉が返ってきたのです。
「先生にも、あと1回くらいクレームが来るかもしれませんから、気を付けてくださいね。」

で、3月には、無事に、この3名で卒業式を迎えることができたのです。