人間には、損をしたくない、失敗したくないという心理的傾向があります。
これを「損失回避性」といいます。
利益から得られる満足より、損失によって生ずる苦痛のほうが大きいと感じて、損失を避けるのです。
期待よりも不安が上回ってしまう心理的傾向があると言ってもいいです。
この「損失回避性」が、現状を変更する行動場面において現れるのが「現状維持バイアス」です。
変化や未知なることを避け、現状を維持したくなる心理的傾向です。
例えば、
これだけ携帯会社が、顧客を囲い込んだり新規顧客を開拓しようとして、様々な新しいプランを提案しています。
しかし、多くの人は、プランを変更すれば、今の使い方なら必ず安くなるのが分かっているのになかなか変えようとしません。
また、多くの人は、携帯電話会社を変えれば、これも、今の使い方なら必ず安くなるのになかなか変えようとしません。
合理的に考えるなら、おかしなことです。でも、これはそんな人には「現状維持バイアス」が働いているのです。
現在の環境を変えることに、不安や違和感をもって、そのままでよいと思ってしまうのです。
まだあります。
ランチや仕事が終わっての居酒屋、友達とお茶するカフェなど、ついつい同じ店になってしまいがちです。世の中にはたくさんの店があるのに、なぜそんな行動をとってしまうのでしょうか。 それは、このように考えているのです。
もし、いつもと違う店に行ったら、もっとおいしいかもしれない。でも、苦手な味つけかもしれないし、値段が高いかもしれない。サービスが悪いかもしれない。それは、とても困るから冒険する気にはなれない。 この失敗したくないという気持ちが、「現状維持バイアス」なのです。
私は、家庭生活だったら、現状維持バイアスを意識して、それぞれのタイミングにおいて、必要なことを変えていけばよいのだと思っています。
しかし、仕事においてはそのようなことは言えません。
1番合理的で、効率的な方法を選ぶべきです。
しかし、現実の学校には、これまでやってきた教材でやりたい、これまでやってきた方法でやりたいという先生がかなりいます。
その先生たち、その職場は、現状維持バイアスが極度に強いのです。
そのような先生には、こちらの教材の方がいいですよと言っても全く変えてくれません。
現状を変えることによって「何かを失うかもしれない」という不安が「何かを得られるかもしれない」という期待よりも上回るのです。 ですから、この教材を選んだら、この方法を使ったら「こんなすばらしいものが得られる」ということをくりかえしアピールしていくしかないと思います。 そのために、こんなよいことが子供に起こった、こんなよいことが先生に起こったという事実をたくさん蓄積していってください。