なんでも先回りして言ってしまうお母さん

8月に入って、教育サークルの仲間と海老名市の図書館で、読書感想文と理科実験の講座を開きました。
その読書感想文講座では、その年の課題図書を使って指導をしていて、もちろん、講座の前に、課題図書はできる限り読んでおくようにしています。

今年の課題図書のお勧めは、「みんなのためいき図鑑」(村上しいこ作)なる物語です。この物語は私のお気に入りです。

さて、その物語の中に、保健室登校をしている「加世堂さん」と加世堂さんのお母さんが、主人公の嵐太くんの家を訪ねてきた場面があって、そこでは、なんでも先回りして言ってしまうお母さんが、加世堂さんの心を蝕んでいることが描かれています。

こんな描写です。

おかあちゃんが、 加世堂さんに話しかけた。ちょっとてれる。
加世堂さんが、なにかこたえようとした、そのときだ。
「嵐太くん、モンブランがすきだってきいたから、買ってきたの。(中略)ほら、ゆら、おわたししなきゃ。さっきの絵」
加世堂さんのおかあさんが、一気にしゃべる。
「わかって……」
加世堂さんが、こたえようとしたけど、「る」までいわせてもらえなかった。
「それでね、(中略)ゆらも、そうしたいわよね」
「わたしは、むりに??????」
「ゆら、こういうときには、うれしいっていうものよ。嵐太くんは、もちろんいいでしょ」
(中略)
「あの、これ」
加世堂さんが、 そっと、ピンクのウサギの絵がついたふうとうをくれた。
(中略)
ぼくが手をのばしたとたん、また加世堂さんのおかあさんの口がひらく。
「ゆら。あの、これじゃないでしょ。ちゃんと、 ありがとうとか、これもらってくださいとか、ひとことそえなきゃ」
「あ、これもらってください」
きんちょうした空気を、ずっと加世堂さんが発してる。
(中略)
おかあさんは、おこっていうわけじゃない。
まちがったことを、いってるわけじゃない。
でも加世堂さんが、とてもかわいそうに思えてきた。

言い方が少しばかり失礼でも、不器用な物言いでも、自分の口から、自分の言葉で言わせてあげないと、心は病んでいきます。

先回りすることで安全は作れますが、しかし、失敗も含めたリアルな体験と学びを奪ってしまうことになるです。

子供たちと話す時、少しばかり「聞く」側になってあげることが大切ですね。